武田友紀さんの「『繊細さん』の本」(飛鳥新社)が出版されたのは2018年でした。ベストセラーになったこの本は、「繊細さん」という言葉とともに、HSP(Highly Sensitive Person)という専門用語の普及にも貢献しました。
周りに気をつかうのは、日本人の多くの人たちに見られる気質のようにも感じます。忖度などという言葉もあるくらいですから。日本人の機微や阿吽の呼吸など、これまでは美徳として語られることが多かったように思います。
しかし、時代は変わり、グローバル・スタンダードという名のアメリカン・スタンダードが入ってきて、言ったもん勝ち、自分さえよければ、といった考え方がじわじわと一部の日本人のこころにも侵食していきました。21世紀になった始まった「聖域なき構造改革」は、日本人の美意識や美徳といった概念にも、効率化、国際標準という大義名分のもと、改革を迫ってきました。
自由主義社会や競争社会は、完全競争市場の前提があってはじめてうまくいくとされています。協調から競争へという価値観の変化自体が悪いのではなく、完全競争市場という前提の整備をスルーしてうわべだけ改革するとどうなるかを、いまの日本は経済学の壮大な実験場として世界に示しているように思われます。
いまでも多くの日本人の心には「利他の心」や「三方良し」といった概念が残っていると思います。ポストコロナ禍のなかで、途上国になりかけている日本が、再び世界の中心に戻るためには、失われつつある日本人の心を取り戻すことが大事で、「繊細さん」が特別なのではなく、マジョリティ、多数派に戻らなければならないのではないでしょうか。
意識高い系とか、プレゼン、ピッチなど、確かに情報化社会においては重要な能力かもしれませんが、繊細さんにあるような他人に対する気づかいや思いやりのこころがあって初めて人の心に伝わる言葉になるのだと思います。
言霊という言葉があるように、心のこもっていないカッコつけだけの言葉では人は動きません。
「気づかい」や「おもてなし」といった言葉が、言葉だけではなく、心の底から日常的に実践されるように戻ったとき、日本の第2章が始まるような気がします。
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